開いた口、ふさがらない
先週のある日、朝いちでおばちゃんが
「ねぇねぇgoru-goruさん!今月の××日にムール貝のコース食べに行くんだって!◯◯さんが言ってたよ!goru-goruさんも行けるよね?!大丈夫だよね?!ね!ね!ね!!」
と聞いてきた。
あーホント朝から騒がしい人だ。
しかも朝一番で話す内容がそれですか、と半ば呆れながらも
「ああ、××日くらいだったら別に忙しい時期でもないから大丈夫だと思うけど」
と答えると
「ホント?!あー良かった!なんかね、◯◯さんが知ってる店でムール貝のコースがあってね、美味しいから行こうって事になって~…」
などと説明してくる。
「へぇー、ムール貝のコースなんて珍しいね。ムール貝づくしなの?」
と、最初から最後までムール貝ばっかってどうなんだよと思いつつ聞いてみた。
すると、
「え?え~っと…うーん…なんか、アタシも前にその店行ったことあるんだけどー、ムール貝のコースなんか無かったような気がするんだけどね、でも◯◯さんが”ムール貝のコース”って言っててねー!で、その日ちょうど旧派遣さんがこっちに戻って来るんだって!だから旧派遣さんにも声かけてて皆で行こうって事になってて~、おじさんもこっちの事務所に来るって言ってるし~…」
だって。
ああ、なるほどな。
そういう事なのね~。
つか、この人たちいつまで旧派遣さんを引きずる気なんだろうなぁ。
その店も旧派遣さんが行きたいって言ったのかねぇ。
で、よくよく聞いてみるとどうやらその店というのが結構離れた場所にあるらしく、歩いて最寄り駅まで行くのがなかなか大変そうな場所にある。
それってどうやって行ってどうやって帰れっつーんだよ。
要は、職場方面から離れていて不便ってことは、旧派遣さんの実家に近いってことなんだよね。
なんだかなぁ。
と、イマイチ気乗りしないままおばちゃんがはしゃいでいるのを横目で見ていた。
一番不思議なのは、おばちゃんって辞めた後も会って嬉しいくらい旧派遣さんと仲良かったんだろーか?
まぁ私が2人ともと仲良くなかったから、あの2人がどこまでの仲なのかはよくわかっていないだけかもしれんが。
そのおばちゃんがはしゃいでいた翌日、また朝いちでおばちゃんが
「ねぇねぇgoru-goruさん!昨日ムール貝行くって言ってたでしょ?!あれ日にち変更なんだって!」
と言ってきた。
ふ~ん、あ、そう。
変更でもその辺りの日だったら行けるし、もっとズレて月次決算に差し掛かったら行けないだけだし、別にどっちでもいいかなぁと思いながら
「ああ、そうなの。いつになったの?」
と聞くと、
「最初に言ってた日の前の日に変更なんだって!」
だって。
一日ズラしただけかい~と思いながら
「あー、前日にズラしたんだ。なんかあったの?」
と聞くと
「◯◯さんが、最初に言ってた日が内部監査の日っていうのすっかり忘れてたんだってー!」
だって。
は?
普通忘れますかね、そんな一大イベント。
部署によって内部監査の日が違うので、他部署の日程までは私も把握していなかったが、どうやら丁度その日が◯◯さんの部署の内部監査に当たっていたらしい。
本社からゾロゾロと大勢やって来て、夜には管理職連中と繰り出すはずなので、そりゃ無理だろうな。
それを忘れるとはよっぽど旧派遣さんとのお食事会が楽しみだったんだろうなぁ。
あんなロクに仕事という仕事をしていなかった人、なんでそんなに惜しまれつつだったのか不思議でならない私は、さらに謎でいっぱいになってしまった。
で、結局は前倒しで前日に変更て。
旧派遣さん、前日に帰ってきてるのかいな。
まぁあまり気にしない事にしよう。
と思っていたらおばちゃんが
「でね!昨日”ムール貝のコース”って言ってたんだけど、”ムール貝のコース”なんじゃなくて、コースの中にムール貝の料理が入ってるっていう意味なんだって!」
だって。
・・・・・・・・・・・・・・・・
まぁそうだろうなぁ。
最初から最後までムール貝って結構キツそうだしなぁ。
と思っていたらおばちゃんがすかさず
「アタシじゃないから!ムール貝のコースって言ったの◯◯さんだから!アタシも最初聞いたとき変だと思ったんだよね、でも◯◯さんがそう言うからそうなのかなぁと思って!アタシは違うと思ってたから!!」
だって。
はいはい。
そんなのどうでもいいって。
だれも「アンタ、昨日”ムール貝のコース”って言ってたじゃん!!」なんて責めないわ。
アンタじゃあるまいし。
などと考えつつ
「あ、そうなんだー。で、前日になったんだね、うん了解~。でも場所が遠いんだよね?どうしようかなぁ」
と言うと、おばちゃんは
「おじさんとか一緒だし、タクシーで行けばいいんじゃない?!誰かが便乗させてくれるから大丈夫だって!!」
と言いながらサーッとどこかへ行ってしまった。
本当にそういうところが適当で無責任なんだよなぁ、この人。
などと思いながら席に戻った。
おばちゃんは飲み会の日は必ず自転車で通勤してくる。
おばちゃんの自宅というのが意外と便利な場所にあって、どこからでもだいたい自転車で行ける均等な距離の場所にある。
自分がそうだから、他の人の足の不便さをあまりわかっていない所がある。
行きは皆と一緒に行くにしても、他の人とは反対方向になってしまう私はどうやって帰れっつーんだよ。
どうしたもんかなぁ、と考えていたその日の午後に営業の若手の男性社員が話しかけてきた。
「goru-goruさん、今年の忘年会の事なんですけどね、今年は全体で大々的にやるのは控えて、部署ごとにやろうかって話になってるんですよ~」
と言う。
へぇ、そうなんだ、と思いながら「ふんふん」と聞いていると
「で、ウチの部署と支社長とgoru-goruさんのところと、あと◯◯さんのところとおばちゃんもウチの方で一緒にって支社長が言ってるんで、合同でやろうかと思ってるんですよ~。◯◯日で予定してるんですけど大丈夫ですか?」
と聞いてくる。
え~、よりにもよってオタクの部署とですか~、ゲンナリ。
この話し掛けて来た若手社員くんは感じの良い好青年なのだが、この彼と同じ部署にいる先輩や上司連中がクセの強い人ばかりで私は苦手で普段あまり接していないのだ。
というかさー、◯◯さんが旧派遣さんも誘って行くって言ってたのと日が近いんだよなぁ。
で、どっちも会費集めるやつなんだよ。
単なるパートのおばさんには厳しい出費だわ。
是非どちらか片方だけに参加って事にしたい。
というわけで、「よりにもよってだけどいかにも会社の忘年会」の方に参加することにして、◯◯さんが画策している個人的な飲み会はパスする事にしよう。
それを伝えるべく、翌日の昼休みに◯◯さんに
「◯◯さん、忘年会の話聞いた?」
と尋ねてみた。
◯◯さんは
「え?忘年会?」
といかにも知らない風に言っていた。
「昨日▲▲くんが言ってたんだけど、今年の忘年会は全体でやらずに部署ごとでやるんだって」
というと、◯◯さんは
「ああ、それは知ってるよ。それぞれ部署単位でやったらいいんでしょ?」
という。
どうやらそれは知っているらしい。
「それで、ウチと◯◯さんのところは▲▲くんの部署と一緒にやろうって支社長が言ってるんだって。支社長も一緒だからって」
と言うと、どうやらその話は◯◯さんも聞いていなかったようで
「え?そうなの?それは聞いてないよ」
と言う。
「▲▲くんがそう言ってたから聞いてみたら?でさー、おばちゃんから聞いたんだけど、◯◯さんどこかで飲み会だか食事会だかやるって言ってたでしょ?私、会社でやる方に行くから◯◯さんが行くって言ってたやつは止めておくよ。予算的に厳しいし、店の場所も遠くて行き
帰りしにくそうだからまた次の機会にね」
と返事しておいた。
すると◯◯さんはちょっと微妙な表情で考えていた。
そして
「えっと、それぞれの部署でやったらいいんだよね、忘年会?」
とまたこちらに尋ねてきた。
まぁ私に聞かれてもよくは知らないのだが、▲▲くんの話ではそういう話だったよね。
と思ったので
「そうなんじゃないの?▲▲くんの言い方では。私はどういう経緯で今年そうなったかまでは知らないけどさ。で、なんでかは知らないけどウチと◯◯さんのところは▲▲くんのところと合同だよ。私もその日大丈夫か聞かれただけで詳しくは分からないから▲▲くんに聞いてみてよ」
と言うと、◯◯さんは
「あ~・・・、そうかー・・・」
と沈んだように答えていた。
おそらく、私の推測だが◯◯さんは各部署で忘年会をすると聞いて自分の部署の忘年会として旧派遣さんも誘ってやろうとしたんじゃないかと思うんだなぁ。
ところが支社長の意向で営業の方の部署に組み込まれてしまったから考えこんじゃったんだろうな。
まぁ、旧派遣さんを誘ってのお食事会はそれはそれとしてやればいいんじゃね?
他の人も余裕がある人は参加するだろうし。
私は◯◯さんの方を断る口実が出来たので丁度良かったな。