ガラスのハートは何処へ
若手くんは、移動してくる前から
「ちょっと気が弱い」
「繊細で打たれ弱い」
という評判だった。
若手くんを知っている、若手くんの先輩に当たる別の若手社員は
「彼はガラスのハートの持ち主なんですよね〜」
などと評していた。
なので、移動してくる前は
「どんだけひ弱な若者が来るのか」
と、なんとなく面倒くさい気になっていたのだ。
現在、まぁ相変わらずロボットと若手くんはソリが合わないというか考え方が違うというか、そんなこんなで一時停戦中ではあるが、いまいちスムーズな連携は取れていない。
傍で観察していると、若手くんはそうそうアホではなさそうである。
発想が今時で自分都合なだけで、一応噛み砕いて考える事は出来るようだ。
となると、残りの一方、ロボットがアホなのかというと、これがアホなのである。
知識も無いが知恵もない。
もうお手上げ状態なのだが、本人は露ほども思っていないので、余計に手に負えないのだ。
無知で知恵も働かないクセに頑固で融通が利かない。
AIを搭載してもらえなかった残念なロボットなのである。
どういうアホなのかというと、以前祝儀袋の水引の記事を書いたと思うが、ロボットはこういった類の知識は皆無なのである。
使用目的によって水引の種類が違う事を知らなかったのだ。
これは知識であるから、知らない事があるのは致し方ない。
おそらく、今まで必要に迫られたことがなかったのだろう。
問題はその後で、知らなかったなら
「それは知らないから教えて」
と誰かに聞くなり自分で調べるなりすれば良い。
だが、ロボットという人は知恵のジャンルがアホなので、平気で
「そんなの別に何でもいいよ。好き好きで選んだらいいんでしょ?」
と、自分の無知を恥じる事なく正当化して、そもそもの使い分けのマナーを学ぼうとしなかったのである。
高校生の子が2人いる、れっきとした父親である。
まぁなんていうか・・・
恥ずかしい親だな、おい。
修正するなら今のうちなのになぁ。
子供に聞かれたら「好みで選んだらいいよ」とか答えるんだろーか?
子供が可哀想に思えてきたわ。
まぁそんなこんなで、そもそもの人間の出来具合の違いもあって、まったく気が合っていない2人であるが、最初の頃のような一触即発な事象は起こらなくなった。
というのも、どうやら若手くんがすっかり諦観の域に入ったらしい。
どうも様子を見ていると、ロボットにいちいち腹を立ててもしょうがないので取り敢えずは「はいはい」と聞いておく事にしたらしい。
そして、ロボットがいないスキに前の上司や同僚に電話を掛けてグチっているという具合である。
それはそれでどうなんだよとは思うが、こちらでごくごく親しい人がまだいないのでまぁしょうがないのか。
ただ、ロボットがいないスキではあるが、私はいるんだよ。
思いっきり私の目の前で
「今、ロボットさん出かけてて、電話出来る状態になったんで掛けました~」
とか朗らかに言いながら電話してんのな。
もう完全にこちらには馴染む気が無いと見えるわ。
しかも目の前に座ってる私の事は完全に石と見做してるよね。
そういえば前におじさんも言ってたなぁ。
「アイツ、見る度に電話ばかりしてるなぁ。ああいうのは良くないんじゃないか?」
少し経ってから
「アイツ、ロボットさんがいない時を狙って電話してるなぁ。見てたらよくわかるよ。周りの人間も分かってると思うけどなぁ」
だって。
これのどこが一体『ガラスのハート』なんだろーな?